約10年前。都内近郊のとある雑居ビル。
「緊張してるの?」
「ちょっとね」
「じゃあ私のこと彼女だと思って」
目の前には、たわわな乳房をポロンと出した控えめに言ってもタイプの可愛い女性が、私のひざの上に座っていた。学生時代に友人たちと初めてピンサロに行った日のことだった。
――勃たなかった。
強がりでもなんでもなく、私はメンタルが強い人間だと自負している。落ち込んだりしないし、緊張もしない。しかし、勃起メンタルは少々弱い。
普段は一晩で2,3回セックスできるのに衆人環境下や、ちょっとでも気が散る状況がダメ。初めてセックスした時も。複数プレイもダメ。カラオケとかネットカフェもダメ。あとそうだ、ハプバーに行った時もダメだった。
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台北の自宅でカウチサーフィン的なことをやっている。香港人女性の2人組が泊まりに来た。照れ屋なだけとは思うが、第一印象はあまり良くなかった。彼女たちは2泊の予定だった。1泊目の夜。私は自宅に女を連れてきていた。その時は充電器を貸してあげたり、少しだけ会話をした。
そして2泊目の夜。リビングでPCをいじっていると、彼女が部屋から出てきて、グラスを用意していた。免税店で買ってきたベイリーズを飲もうとしていた。
「あなたも飲む?」
「じゃあちょっと貰おうかな」
「昨日の女の子は恋人?」
「まぁね」
彼女の雰囲気は、即系(ナンパ業界で言われる即日にセックスできそうな子)っぽいと思った。彼女とベイリーズを飲みながら30分ほど話をした。取り立てて大した話はしていないが、なんとなく「おセックスできそうだな」という感じがしていた。
彼女たちは、これから友人たちと合流して外に飲みに行くらしい。予定がない週末の夜は、私は恋人の家に行く。ただ、ゲストと初めて「何かが起きそうだ」と予感した私は、自宅にいることにした。
香港人もそうだけど、私と中華系の相性は祝福されている。
作業を終えて、ランニングして自宅に戻るとちょうど同じタイミングで、予想よりも早く彼女たちも戻って来た。
――彼女は酔っぱらっていた。
演技かな?と思ったけど本当に酔ってるようだ。時として女は建前で酔ってるフリをする。
「水買ってきてあげるよ」
ちょうどコンビニに行きたかったので、シャワーを浴びてコンビニで水を買ってきてあげた。その間、彼女はずっとソファでぐったりしていた。私が買ってきた水を飲んだあと、彼女が強引に一緒に泊まっている友達も呼んで3人で乾杯した。
「ねぇトランプしよう。負けた人がイッキね」
友達はやれやれと言った感じで、彼女の提案を断りスマホをいじっていた。私と彼女だけがトランプをしてベイリーズをイッキ飲みしていた。彼女が私に触れる回数が増えた。肩まで組んでくる。これはもうセックスはできるんだけど、同じ部屋に泊まってる友達がどうするだろうか?「ダメダメ」と今まで幾度となく見てきたであろう、変な女の正義心みたいな邪魔だけはしないで欲しいなと思っていた。
「あなたのSNSの写真カッコイイと思ったけど実物のほうがカッコイイよ」
ちょうど友達がいない時に顔を近づけてきた彼女にキスをする。もう1回した。友達がリビングに出てきたら離れる。彼女はうふふと笑いながら楽しそうだった。次に友達が離れた時はもっと過激だった。彼女は”モノ”を触っていた。
「先に寝るね」
雰囲気を察してか友達が部屋から出てきて言った。もう酒もトランプもいらない。やる事は1つしかないだろ。だっこして彼女を部屋に連れて行く。幾度となく女性が入ってる部屋なわけだが、ゲストの女性が私の部屋に初めて入った瞬間だった。
ベッドに押し倒していつものように事を進める。はじめは「I’m so shy」とか言ってた彼女も「I want to fuck with you」とか言っていた。スカートの金具が壊れてしまっていて、スカートをたくし上げてパンツをずらし、私に跨って挿れようとする。
その時、ナプキンが見えて生理か。また布団が汚れるななどとか考えていたら萎えてしまった。2週間前。私は新しい女性とセックスをした。生理中で布団を一部、血みどろにしてしまった。萎えることは悪いことじゃない。焦りは禁物だ。こういう時はゆっくりやればいい。私は再び優しく愛撫をする。そしてスカートをたくし上げてパンツを下ろそうとした。私の手を彼女が遮る。
「…!?」
何かが見えた。今見えたのってまさか私にもついてる”モノ”か?
バンコクでレディーボーイとキスしたり、シンガポールの河原でレディーボーイにしごかれたこともあるけど、慣れたら見ればわかる。骨格とか喉仏とか。しかし彼女の骨格や声は女だ。混乱した。勇気を出して言ってみた。
「僕たちは”同じ”だよね」
「え?」
「僕たちは”同じ”だよね?」
「違うよ」
どういうことだ?”モノ”がついてるなら、こいつはどこに挿れようとした?もとは男で人工の”オンナ”がついているのか?
謎の状況だったが、勃たないことには始まらない。トイレに行きたかったし休憩しようと思い、軽くシャワーを浴びることにした。シャワーから戻ると彼女は大きないびきをかいて寝ていた。君は男なの?女なの?
「タイでやったのか?」
「これはナチュラルだよ」
カミングアウトしたくないというグダだと思った。しかし、どういうことなんだ。私の目の前にいるのは”男の娘”のような香港人。ただ1つ興味で思った。
――フェラチオしてみたい。
「”ある”んだよね?僕と同じもの」
「…うん」
「舐めたい」
「え?」
「君のを舐めたい」
「本当に言ってる?」
「シャワー浴びてきて」
彼女がシャワーを浴びてる間中、スマホで「香港 レディーボーイ」とか「香港 オカマ」とか一生懸命Googleに打ち込み、情報を求めた。脳の処理速度が追いつこうと必死だったけど、情報は何もなかった。彼女がシャワーから出てくる。
「なんで”ある”ってわかった?」
「さっき見えたから」
「恥ずかしい」
「君は僕のを触って。僕も君のを触る」
静かに2人で”モノ”を触り合った。
「脱いで。見てみたい」
「うん」
ポロンと出た彼女の”モノ”は、まるで少年のようで皮をかぶっていた。毛は柔らかく明らかに男の毛ではない。恐らく自分の”モノ”とは違う、女の匂いがした。ペロっと舐めてみた。彼女が体をよじる。普段、女性はこんな気分でフェラチオしているのか。ゾクゾクした。次は口に含んでみる。これは、私の人生で初めてのフェラチオだ。
男だし、水泳をやっていたから並の女性よりは肺活量があるだろう。気持ちがのってきてバキュームフェラみたいな感じになった。彼女は気持ちよさそうだった。我ながら以前、動画で見た「絶対イカせる男」みたいだなと思っていた。初めて”モノ”同士を舐めあう69の態勢を経たあと、休憩。
「ナプキンしてたよね?生理なの?」
「時々ある」
「”そっち”もあるんだ」
「”中”にある」
彼女の説明ではどこに位置するか、わからなかったが、両方あるそうだ。彼女はナプキンをしていたので、フェラチオしていた時に、彼女の”モノ”とお尻の間は観察できなかった。いや、しようとしなかったというほうが相応しいか。ともあれ、私は心から詫びた。
「タイで…とか失礼な事を言って本当にごめんなさい」
「気にしてないよ」
――マンコがあれば、チンコがないと思った?チンコがあれば、マンコがないと思った?
物事を一面的にしか見れていない証拠。色々知った気になったところでまだまだ無知だったし、世界が狭かった。
「嫌じゃないの?」
「ううん」
「どうして?怖くないの?」
「僕は世界で色んなもの見て経験してきたから怖くなんてないよ」
少し休憩して、彼女が私のを舐めたり、私が彼女のを再度舐めたりした。彼女はセックスをしたがって跨ろうと何度かしたが、勃起しては萎えてを何度か繰り返した。彼女のフェラチオは上手だったが、それでも勃起しなくなってしまった。彼女は諦めたように笑みを浮かべて私の横で寝そべった。なんだか申し訳ない気分だったけど、謝らなかった。
「僕は世界で色んなもの見て経験してきたから怖くなんてないよ」
この気持ちに嘘はない。実際に私は彼女の”モノ”を舐めた。しかし、私の”モノ”が怖がっていた。異質な何かの中に入っていくことを怖がっていた。カオスを求めるには、受け入れるには、覚悟が必要だ。気持ちも、勃起も。まだまだ甘かった。
****
「これ好き?1つあげるよ」
翌日。空港に行く前に、街に買い物に行って戻って来た彼女が、屋台で買ってきたソーセージをくれた。優しい子だった。
彼女は生物学上的には女性なんだろうけど、”モノ”がついてるとか、ついてないとかは問題じゃない。同じ人間だし、わかりあって過ごした一晩があったことに変わりはない。
――もっと覚悟を持って見たことない世界を見よう
2人の女性が去った部屋でソーセージを頬張りならがら、そんなことを考えていた。
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